秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

仁義

2012年に開催した「福島・東北まつり」。その裏の眼目のひとつは、戊辰戦争自由民権運動だった。

多くの人は知らない。

だが、そのために、私は、イベントの構成を二日間とも会津民謡と郡上おどり、そして竹あかりの慰霊の灯で締めくくった。
 
それは、戊辰戦争で無残な死をとげた人々、自由民権運動で寒冷の中、満足な衣類も与えられずに殺害された闘士たち、その後、中央政府の差別的処遇の中、貧農で、身売りされ、男たちにからだを遊ばれ、岡場所で亡くなった農家の娘たち…。そして、津波地震で亡くなった方への慰霊だった。
 
私は、じつは震災前から戊辰戦争と土佐で生まれた自由民権運動が福島で現実の闘争になった経緯にこだわりがあった。いずれも中央政府の圧倒的な弾圧。そして、福島差別だ。それは、じつは戦前まで続いていた。
 
国体維新を目指した、2.26事件はじつは福島の悲惨抜きでは起きてない。

この悲惨の経緯を、30年以上前、NHK大河がドラマにしている。「獅子の時代」。戊辰戦争から自由民権運動までをひとりの会津武士の姿を通して描いた。脚本は山田太一氏。

ある縁で、当時のNHKチーフディレクターだった清水満さんと私は知り合いだった。

折しも、NHKが翌年、急遽、福島を舞台にした大河をやることになった。「八重の桜」。当時の民主党政権からの強い要望と圧力もあった。
 
ならばと、清水さんに福島の歴史、歩みを踏まえて、作品制作について語ってもらいながら、いま福島が直面している原発事故による差別的処遇に議論を広げようと考えたのだ。

すると、清水さんが、せっかくのいいイベントだからと、高齢になった、主役の著名俳優さんに連絡をとってくれた。もちろん、ノーギャラでのお願いだ。

すると、ギャラなんかいらないし、参加したいのは山々だ。だが、どうも体調がよくなく、公の場での出演はご遠慮している…というその方の返事だったと清水さんが伝えてくださった。

じつは、それが今日、死亡報道が流れた、菅原文太さんだ。

現政権、集団的自衛権の容認を含め、手続きを無視した権力の横暴に、最後まで異議を唱え、深作監督の仁義なきシリーズのまま、反権力を貫いた一生だったと思う。
 
じゃがいもの会で父親の子育て参加も呼びけ、社会活動に積極的だった。教育というものを知っていた。いうべきことはいう。道理の通らないものには、道理がないと正面切ってぶつかる。その姿で子どもや後に続く世代に道理を教えた。

人の生活の本来のあり方、人を手前勝手な都合で利用しない、日本人としての矜持、誇り…それを蹂躙する力には、きちんと向き合う。

まさに、仁義を生きた人だ。