秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

H先生のこと

昨日、一年に一回の区の定期健康診断にいってきた。いま、毎月、いくつか薬を出してもらっている、青山ツインタワーの医療フロアにある、馴染みのH先生のクリニック。
 
ものすごく、気のいい先生で、ときどき、不安になることもあるのだがw いかにもツインタワーに入ってるクリニックといった、気取って、キラキラしたところがないのが気にいっている。

それに、注射が驚くほど、うまい!w まったくといっていいほど、チクリとしない。
あの気の弱そうな先生がなぜ、あんなに注射がうまいのかは、いまでもなぞだw
 
なにせ、数年前に心臓に問題があると診断されて、紹介状をもらい、死にかけたときに救急車でICUに運ばれたことのある、心臓血管研究所で、息切れするほどの運動をさせられ、精密検査を受けた。まったく異常なし。確かに、動悸や息切れがあったのだが、神経性じゃないか…といわれたw
 
その次は、前立腺に問題があると診断され、こちらも死にかけたあと、心臓血管研究所から、同じ東大病院系列の呼吸器科の専門医のいる東京共済病院に転院したのだが、そこで泌尿器科に紹介状を持っていった。
 
そして、あまり美しくない女医さんに、はい、後ろを向いてください~などといわれてるうちに、いきなり背後を襲われたw 生れて初めて女性に襲われた。痛いですか…と聞くから、当然、痛いというと、ああ、それは私の指が痛いんですよね…と…。おいおい…だったら、聞くなよ。で、結局、異常なし。

二年前だったが、新しく入れた血管の動脈硬化度を調べられる機械が入ったんですよと少し自慢そうにいわれながら、検査してもらったことがある。すると、むむむ! むむむ!と長い沈黙のあと、小さくつぶやいて、「秀嶋さん。血管年齢80歳です!」という。オレ、じゃ、もうすぐ死ぬじゃん!と思ったら、「もう一度やりましょう」って…

どうも、操作方法をまだ完全にマスターしていなかったのではないかと思う。なぜなら、その後、その機械は二度と登場しないからだw
 
ことほどさように、H先生には、その診断大丈夫か?と疑念を抱かせるところがあるのだが、それも転ばぬ先の杖と思えば、文句はいえない。それに、邪だが、そうした経験をさせてもらうと、じつは、映画や芝居のネタにもなる。ますます、文句はいえなくていまに至っている。

H先生のクリニックには若い女性はほとんど来ない。男性か高齢者が大半で、女性はまれだ。隣のSクリニックは先生が女医ということもあるだろうが、いつも患者であふれている。
 
昨日、先生に、「診療やりながら、健康診断って大変じゃないですか?」と聞くと、「いや、この時期は暇なんですよ。みんな風邪も引かないし…」。私は、思わず笑ってしまったのだが、医者の商売にも季節が影響するらしい。「書き入れ時は、9月過ぎですね。急に忙しくなるから、そこでの健康診断は結構大変です」
 
季節労働のようなオレと一緒じゃないかと思うと思わず大きな笑い声が出てしまった。H先生も笑っていた。

私は思う。よくスーパードクターを主人公にしたドラマがある。だが、大事なのは、超一流ではなくても、患者との距離のない普通の医者がたくさんいることだ。重篤な病気ではそうもいかないだろうが、一番必要なのは、未病の段階でそのときの健康状態を教えてくれる普通の医者なのだ。
 
いま、福島は医者が足りない。とりわけ、いわき市は急激な人口増加で、それに拍車がかかっている。しかし、第一原発の収束が見えない中、赴任をためらう医師が多いと聞いた。
 
だが、これは、福島の特色だけとはいえない。過疎地医療は避けたい。高給をもらっても、人生としてそこに生き続けるなにかを見い出せないという医師は少なくはない。
 
地域の復活や再生、新生というとき、多くの人が産業のことばかり、経済のことばかりに目を向ける。だが、人が生きるというのは、生活のいろいろが整備されてこそ、成り立つのだ。

医師がつらい思いをしなくても、同時に、住民が医療のない不安を生きなくてもいられる制度やしくみ。ずっとひとりの医師がそこにいる責任をひとり抱えなくても、いられる安心。同時に、その医師がいなくても、また同じように普通の、患者を安心させられる医師が現れるしくみが必要なのだ。