秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

心地よい疲れ

いわき市及びその周辺に限らず、福島県でも著名ないわき市の海鮮・海産卸のおのざき。

社長のOさんとは、震災後の福島復興支援協働事業の最初に出会った。そして、私の考えに共感してもらい、かつ、私自身もOさんの願いや人柄に惹かれ、ともに、いわき、福島のこれからのために協働するようになった。

そのOさんが、遠慮がちに、自社の定期スポットのCMをつくってくれないかと声をかけてくれた。映画や舞台をやる人間にCM制作を依頼するのははばかられたらしい。

しかし、CMから映画制作にかかわる監督は、実は少なくない。また、映画をやりながら、ドラマ要素の強いCMを制作する監督も多い。

実際、舞台から映像の仕事に転じた当初、私は企業販促やCIのプロモーション作品を多数つくっていたし、CMも手掛けていた。社会問題や教育問題を中心に手掛けるようになって、そこから身を引いた。ある意味、企業の代弁者として、利益追求のための広報宣伝を担うことに抵抗を感じてきたからだ。

もちろん、Oさんもそうした、いま私が映画にかかわり、そうしたものとは別の世界の作品をつくろうとしている決意や意志は知ってくれている。だから、そこには、単なるCMとは違う意味がある…と私は直観した。

今回のCMは、おのざきといえば…といわれるほど馴染みになっている、せんだみつおを使ったが、これまでとは使い方が違う。せんださんも、さすが往年の売れっ子だけあって、その辺のところも読んでいた。

福島の海は、いま、長い沈黙を続けている。試験操業は始まった。そこに次の回復への期待を持つ人も多い。

だが、同時に、3年という月日。福島の漁港に大漁旗がたなびくことはなかった。確かに、原発事故による補償で漁にかかわる人々の生活が困窮しているわけではない。

しかし、いつ昔の海へ戻るかわからない中で、高齢者の多い漁業は、いまのままでは海が回復するころには、その姿さえ失いかねない。まして、その過程で、二次加工の水産加工における技術や技能。それらを囲い込む浜の伝統や文化させ、失いかねない。

漁業従事者と違い、二次産業への補償や手当は薄い。浜の漁港や港町を支えてていた人々の流出は、結果的に地域の喪失にもつながるのだ。

せめて、そんないま、福島県内でも有名なおのざきが、CM の中で、そこへの応援や声援、勇気と誇りを発信する役割があるのではないか…その言葉に、Oさんは、すぐに強くうなづいてくれた。

だから、今回のCM制作には、いわきの浜で再建や再生、新生をめざす人たちが協力してくれた。みんなが、福島の海を愛している。愛してきた。そして、現実を認めながらも、その海をよみがえれと願っている。

その思いをCMの中に忍ばせた。浜通りの伝統民謡「あんばさまの唄」を使ったのもそのためだ。

気づかぬうちに、私なりに気合が入っていたのだろう。撮影が終わって、夜の打ち上げで、すっかり疲れが出た。いつもいく、じゃじゃ馬は欠席して、午後9時には爆睡。

しかし、それはだたの疲れではない。いい仕事をいい協力者と仲間でやれた、心地よい疲れだ。