秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

死語でしかない

変化の裏には、必ず、その変化を生み出している、なにかがある。場合によっては、圧力や駆け引き、取引が介在する。
 
世の中の変化、政治や経済の動向の移り変わり。そこには、報道されない、報道できないなにかの動きがあるのが相場だ。

これまで、なんでそんなに急ぐのかという批判にもかかわらず、半ば強引といえるほど、憲法解釈の変更を閣議決定しようとしていた安部総理が、オバマ来日から次第にその矛先を変えている。

主要閣僚が、集団的自衛権の行使をアメリカ政府の閣僚に理解させる渡米をし、東南アジアや欧州で、総理が同じように理解を求めた。
 
いわば、欧米先進国や日本の軍備化に敏感な東南アジア諸国集団的自衛権を承認させ、外堀を埋める形で、一気に、国内世論をまとめ、閣議決定を乗り越える…

その図式を描いていた。
 
報道、とはいっても総理を始め、日本の閣僚による記者発表だけだが、そこでは、オバマも東南アジアも、そして欧州諸国も、日本の集団的自衛権を認めているという発表をした。
 
しかし、現実はそうではなかった。なかったとしか思えない、発言の転換を、この数日で、安部総理も、石破幹事長も始めた。

日本の外務省のていらくは昔からのことだが、この国の外交官僚は、正確に物事を相手国に伝えない。伝えないどころか、曖昧な表現で伝えたと思い、その曖昧な表現に、仕方なく、曖昧に応えた相手国の言葉を、理解され、意志の確認と疎通ができたと思い込む癖が明治の昔からある。

伝わったと舞い上がっていたのは安部総理と閣僚だ。アメリカも欧州も、そして東南アジア諸国も、中国の台頭に警戒はあっても、安部や現閣僚たちが思うほど、中国に対して好戦的ではない。
 
また、いまやアジアにおいて、日本は最重要国ではない。欧米にとっていいなりになってくれる都合のいい国である点では、ベストカントリーだが、政治経済のおいて、インポータントネーションではないということだ。

危惧していたのは、好戦的になりすぎて、ボタンの掛け違いをすることだ。集団的自衛権の行使に、一定の理解を示すことで、同時に、安部総理がいう積極的平和主義にブレーキをかけた。はしゃぎすぎるなよと。

彼らにとって重要だったのは、集団的自衛権の行使ではなく、その、はしゃすぎるなよを伝えることだった。
 
それを外交官僚や周辺補佐官たちが前後を取り違えた。じつに、お粗末な話しだ。アメリカにとって大事なのは、TPP交渉の都合のいい進展であって、集団的自衛権ではない。
 
やりたいなら、やればいいが、どうしたって、この国がアメリカや中国並の軍事費を現在の経済状態の中で捻出する力がないことを知っている。
 
膨大な赤字国債で、消費税増税後の経済の失速をやっきになって抑え込もうとしている国が、またも膨大な国債発行に頼るしかない軍事力強化などできるはずはない。そう見抜いている。
 
それどころか、そんなことをやられた日には、日本経済が破たんする。その世界的影響の方が怖い。現在の日本の株式市場も、預貯金の市場も、そして円相場もすべて海外投資家や海外投資会社によって動向が決まっている。つまり、膨大な金が注ぎ込まれている。
 
それが損失するようなことをしてもらっては、大迷惑。そのことの方が最重要だということだ。

積極的平和主義をあちこちで語り、訪問先の若者への講演の中でもふれている。だが、安部氏がいう積極的平和主義など、いま世界の先進国、とりわけ欧州では100年前の政治家の言葉にしか聞こえないだろう。

どうやって融和と連携、連帯を図るか。そこに腐心している欧米先進国家にとって、地球規模で物事を考えれば、軍事に拠点を置いた平和主義など死語でしかない。
 
安部総理は、きっと、ロシアのプーチン氏とはとても仲良くなれるかもしれない。