秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

イルミネーション

北風が吹く、始まりの季節の頃、いつも思うことがある。
 
くいしばって、必死で支えてる明日への構えが、訪れた寒さに耐えられず、保てない人がどこかにいるのではないだろうか…
 
11月から12月、年明けの1月、2月、3月は、彩り豊かな行事が続く。だが、そのつくられたイルミネーションがせつない。
 
幼い頃は、楽しみの多い季節だったものが、10代の終わりから、楽しさとは縁遠い季節のように思えるようになった。それも、どうしてか、この寒い季節を乗り越えられない人がどこかにいるのでないかという思いが強くよぎるようになったからだ。
 
貧しい学生時代や演劇人の頃、別に寒い季節でなくても、暮らし向きは大変だった。自分ひとりの生活ではなく、芝居を続け、稽古場を維持していくのに四苦八苦していたからだ。

その暮らしの中で、いつか、それを乗り切れない人もいるだろうと思えるようになった。人は、やはり、満たされた生活ばかりをしていては、他人のことを深く考えられるようにはならないと思う。

なんでも、冬のうつ病というのがあるらしい。実際、この季節から年度末の3月末にかけて、自死者が増える。曇天が続き、寒さが厳しくなるほどに、人は血流も悪くなれば、行動も制限されがちになる。秋田県など自死率の高い地方の天候はそれに重なる。
 
心と身体というのは分かちがたいつながりがあることを思えば、納得がいくことだ。
 
例年に通り、きっとまた、年末になると仮設店舗や仮設住宅からの生中継などが、いかにも私たちマスコミは、こうした苦難にある人を忘れていないとこれみよがしに報道するだろう。

しかし、その苦難に手の届く具体的な手当をマスコミは決してやってはいない。否、マスコミばかりでなく、自治体も、政府機関も、手の届くサポートからは程遠い。
 
何もやっていないというのではない。先日、豊間の復興本部を訪ねると、月一回高齢者のための健康診断を社会福祉事務所と市の保健師が実施していると聞いた。地元から離れている高齢者には、訪問サービスを実施している。
 
だが、体の健康もさることながら、依然、心の回復には程遠い高齢者も少なくないという。震災から3年…これまでの統計でも、歯を食いしばって、抑えられていた、いろいろな症状が表に出る時期だ。それは決して、高齢者だけの問題ではない。

仮設や借り上げ住宅に移っても、これまでと異なる環境になじめず、ひとり半壊している家に戻り、畳4畳ほどを清掃してそこに暮らす高齢者もいるらしい。危険なのだが、家族が止めてもいうことを聞かない。
 
痴呆の出ている、ひとり暮らしの高齢者も同様の様子を示すという。地震の話にあると、あのチリ地震のことと混同している。それは痴呆による症状というだけでなく、あの震災の恐怖をそうやって封じ込めているのかもしれない…

福島第一原発の復旧はまだ途上。除染も残れば、新しい生活となる復興住宅と再建がうまくいくかどうかも未知数だ。
 
そんなとき、人々を消費へと急かすイルミネーションがこの時期、あちこちで点灯してる…。
 
人の痛みや悲しみに手の届かない、イルミネーション。それは、やはり、虚しく、せつない…。