秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

復興の壁

復興予算はついているのに、なぜ、眼に見える形で復興は進んでいないのだ…という声をきく。
 
一方で、福島の風評被害は収まりつつあり、上向き傾向にある…と、どこから情報をえてきたのか、現実にそぐわない情報を確信に満ちて、まことしやかに語る人もいる。

いずれも実態を知らない。知ったような気になっている。一部しかみないでそれを正解だと思い込んでしまう。
 
それなら、まだ、かわいげがあるのだが、最悪なのは、多少の聞き取り調査やデータ収集をやったくらいで、そう確信している人がいるということだ。足下の実態をまったく見ていない。

与えられた情報や収集した情報は、それを鵜呑みにしてはいけない。また、調査のデータ資料は一階層だけで判断してもならない。同じ調査データの中に二階層、三階層が潜んでいる。
 
優秀なマーケッターや調査マンは、その三階層までしっかり収集でき、見抜ける人のことだ。だれがやっても同じ結論になるような情報は、じつは、もっとも疑わなくてはいけない。
 
さらには、現代のマーケティングでは当然ながら、定点観測を深くやらなくてはいけない。数量の問題ではないのだ。いまの時代。それが、マーケティングの基本中の基本。
 
そんなこともわからない人たちが、いま、復興という「ビジネス」にかかわっている。当然ながら、うまくいくわけがない。

一方、行政というシステムは、日々のルーティンをつつがなくこなすことには向いているが、緊急時や非常時、混乱状態のとき、けっして有効ではない。
 
再三言われ続けていることだが、戦後の高度成長期から成熟社会へ向う、不整備な社会から安定的な社会へ向かう過程では、有効だった縦割り行政や中央集中型のシステムは、今日のような多様性と過剰流動性と自立への欲求の高い社会では、まったく機能しない。

それを変えるしくみやシステムはつくられているし、取り組みもされてはいるが、人の教育がそこに追いついていない。人が変わっていないのに、器だけを整えても、うまくいくわけがない。

かといって、民間の力を活用しようとしても、いまの時代、社会や地域への貢献を本気で考えて企業活動をやっているところなど、ごくわずかしかない。そのゆとりが企業そのものにない。当然ながら、安易に民間にすべての権限とシステムを委譲するわけにもいかない。
 
人の弱さで、社会的活動が収益活動だけにすり替えられる危険があるからだ。こうした状況では、復興が遅々として進まない現実が容易には変えられないのは、残念ながら当然だ。
 
最後は政治の問題なのだが、世の中の人は、なにか大きな勘違いをしているが、政治というものの基本は法律をつくることであり、法律を変えることであって、現場の、圧倒的、日々の現実に即応するものではないし、できない。

やるのは、結局、現場なのだ。現場の過ちや不具合を糺せるのも、現場なのだ。つまりは、自分たち自身だということだ。その自分たち自身が変わろうとしないで、制度やシステムが変えていけるわけがない。

一長一短に片が付く問題ではない。だが、その原点、原理原則に気づかないと、ただでさえ、進まない復興の壁を打破していくことはできない。打破できないばかりか、自分たち自身が復興の壁となっていく。