秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

懲りない男

今年は激烈な猛暑になる。そうつぶやいたのは、いつもボロボロになった体をケアしてもらっている赤坂の吉田院のU先生。
 
そして、予言通り、一週間以上も早い梅雨明け宣言と共に、突然の猛暑がやってきた。その猛暑の昨日。一足早い、お彼岸法要(盂蘭盆会)に参列してきた。先祖供養ということで、相模原のかみさんも同席してもらった。
 
式典が終わり、お弁当が出たので、仕事にいく前のかみさんと二人、式典会場の園庭のベンチに腰かけ、二人並んで弁当を食べた。外で二人して弁当を食べる…ずいぶん久しぶりのことだったと思う。
 
うちの経理を離婚したときもずっと続けてもらい、いまも続けてもらっているので、息子のことなど事務所で会い、話をすることはあっても、こうして外で弁当を食べるということはない。

「なんだか、旅行にきてるみたいね…」。おいしいお弁当ね。そういったあと、彼女がふとそういった。若い頃と違い、彼女は何を食べても、いまおいしいとしかいわない。
 
「ずいぶん、安い旅行だけどね…」。オレは、確かにそんな感じだなぁといったあと、そういった。すると、軽く笑って、彼女はいった。「でも、すごくいい旅行よ…」。
 
確かに…。いろいろあっても、いまもこうして自分たちの家の先祖供養に二人して参加できる。二人して並んでご飯を食べているとまだ若い頃のようだ。しかし、いろいろあっても、いまそうできるというのは、ありえないことだ。本当に、それは、いい旅行と同じだ。二人にとっては、いいお盆法要だった。

18歳のときにうちの劇団に入り、演出家としてのオレが目指している世界を一番わかり、役者としてそれに応えようとしながら、結婚を契機に25歳で舞台をやめた。ひとつには、もう一人の看板女優がいて、明らかに実力の差を感じたこともあっただろう。
 
その後は、いろいろもめながらも、オレの芝居や映画の夢に付き合い、離婚という問題を越えて、いまでもオレの福島への取り組みや仕事を応援してくれている。

いつか、彼女がいったことがある。「あなたは結婚に向いていなかったのよ」。オレがどのようなものであれ、原稿に向うと狂気のように夢中になり、現場にいるとスタッフ、俳優と向き合い、すべてを忘れてしまう姿をよく知っている。
 
酒もたばこも女好きもやめられず、また、そうしたものとの新しい出会いがないといい仕事ができない弱さや仕事や作品に追い込まれて落ち込む姿もみている。

ふと昔、恋愛時代に日光にいったときのことを思い出した。あのときもほんとにオレは金がなかった。人に車をかりて、ギリギリいったのを覚えている。風景を二人で眺めるだけで十分だった。
 
だが、そうした、若い頃のことを彼女はいま、ほとんど覚えていない。なぜか、そうした恋人時代や結婚当時のことより、オレの演劇人や映像作家として記憶の方が鮮烈なのだ。

「あなたは結婚に向いていなかったのよ」。それは、別れたもう一人のかみさんにもいわれた言葉だった…
オレは懲りない男だったのだろう。