秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

雪の記憶

東京は昼前から雪。今日一日やむことなく、深夜まで続きそうな勢いだ。
 
昨年より6日早い初雪らしいが、降り方が尋常じゃない。ふと、26年前の3月の大雪を思い出す。

季節外れの大雪で、その日、東京の交通機関は完全にマヒした。だが、よりによって、その日は、オレが勤めていた映像企画制作会社の創立10周年。記念式典を社長がプロデュースし、九段にある科学技術館の大ホールで20名ほどの社員全員で開会前の準備をしていた。
 
開始前の午前から降り出した雪があっという間に大雪になり、午後からのイベントを中止すべきか否かで話し合いを持ったのを覚えている。

社員の一部が延期すべきだといったが、社長は、すでに自宅を出ている人もいるだろう。中止延期にすれば、この雪の中、足を運んでくださったその方たちに申し訳ない。その方たちだけでもお迎えしよう。少人数でもいいじゃないか。閑散とした集りでも恥ずかしいことじゃない。これまでの感謝をお伝えしたい…そのわが社の気持ちを大事にしよう…そういった。携帯電話などない時代だ。確かに、連絡のつけようがなかった。異議を唱えていた社員たちも、社長のその言葉で、意を決した。
 
どこか悲愴な覚悟とこの人の会社にいてよかった…そんな熱い思いで社員たちがだれも文句や不満もいわず、黙々と準備したことを覚えている。自分たちが終了後、帰宅できる段取りも覚束なかったというのに…。実際、社員の多くがその夜、自宅にたどりつけなかったり、遅い帰宅をした。
 
人には、負けるとわかっていても、闘わなくてはいけないときがある…。雪の日のあの記憶は、上京して初めての、大雪の白い東京の風景と重なって、いまも鮮烈にある。
 
創業してまだ10年。人材が豊富というわけもない中、未来を感じさせる経営者の熱気があった。それから1年半後、自社ビルを構える会社にまで成長し、ある分野では国内一のソフトシェアを持つ企業になった。それからさらに1年半後、オレは重要な役職を捨てて、その会社を辞め、独立した。
 
そして、独立してまもなく、得意先を探してあちこち歩き回っているそのときもまた、東京は久しぶりの大雪だった。スーツに革靴姿で、足の芯まで冷え切って雪溶けの道を歩いたときのせつない気持ちを覚えている。

不思議と大雪の日には、いろいろな鮮烈な出来事がある。福岡も10年に一度といった周期で大雪になることがある。そのいくつかもいろいろな思い出深い出来事と重なっている。

新年会やあいさつ回り、顔合わせといったものが大方、片付き、明日から実質的な仕事が本格化するという人もいるだろう。オレも来週は短編作品の取りまとめや今月中にまとめておかなくてはいけないMOVEの作業が重なって、慌ただしくなる。

その前日の雪は、さて、どんな出来事と一緒に、そのあとの記憶となっていくのだろう。