秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

2009年の予言

民主党が政権をとったとき、長い付き合いのある、いまテレビで人気の尾木ママの自宅兼事務所へお邪魔した。うちの自主作品の教育物の中で、いじめについてのコメントをもらうためだった。
 
いつもの調子で、あうんの呼吸で欲しいコメントをもらい、撮影が終わった。1年ぶりにお会いしたこともあって、昨今の政治の話になった。そのとき、民主党政権になって、過去60年近くに及ぶ自民一党独裁政権の歪みを糺せるのか…という話になった。尾木さんもオレも当然、そんな一長一短に事が片付くほど簡単ではないと思っている。
 
「やはり、市民がしっかり政権をみつめていく、育てていくということが必要なんだろうなと思いますね」。尾木さんの意見にオレもうなづいた。が、そのあと、オレは、こう続けた。「先生、だけど、それだけでは終りませんよ…。ある意味、とても危険な帰路にいま私たちは立たされています」。
 
尾木さんはややいぶかしそうな顔になった。オレは続けた。「いま、民主党が進めようとしている政策や制度設計がうまくいけばいいです。しかし、おそらく、そう簡単にはいかない。そして、それが裏切られたり、うまくいかなったとき、国民の期待が大きい分、一番危ういと思っています」。「ほう…」と尾木さんは身を乗り出した。

「大衆が大きな変化の選択をし、そのあとに生まれたものに裏切られると大きな揺り戻しがきます。歴史を見てもそうです。そして、それが国民主義、市民主義といった、これまでにない主張をしているものほど、そのあとに来るのは、保守主義を越えた、全体主義的な要素の強いものになる。大正デモクラシーがありながら、閉塞感から政党政治が瓦解し、軍部の台頭を多くの国民が支持し、選択したときと時代の閉塞感が似ています。ヒトラーのナチ党もそのようにして誕生している。民主党が倒れれば、きっと同じような全体の利益を優先する輩の声が大きくなる。そこに、かつての小泉的なヒーロー願望や強引な政策決定をよしとする空気が生まれます」
 
尾木さんはなるほどという顔でオレの話を聞いていた。

「かつてと違い、だれもがファシズムはいやだと思っている。ですが、政策決定に手間暇がかかり、思うような国民生活の安定や安全が得られないと、まず、地方の悪しき共同体から、全体主義的主張をするものが出てくる。最初はひとつの地域から生まれたものが、やがて別の地域と連携し、国全体の空気として全体主義を動かすようになる…はっと、気づいたとき、当事者もそれを支持したものも、いつか、制度を変えようとしてスタートしていたものが、ファシズム的なものへの転用になっている…そう気づくのです。そうした時代の入り口になるかもしれないところに、私たちはいまいるのだと気づくべきです」
 
何度もいうが、戦間期ファシズムの研究を検証すればわかる。鬼のような軍閥ばかりがいて、鬼のように大衆を煽動し、鬼のように全体主義を徹底させていったのではない。
 
教育のない人々が、教養と素養のない人々が、「ああ!まどろっこしい!」「がつんとやってくれるリーダーが欲しい!」「なんでもいいから早いとこケリをつくけてくれ!」「いつまでも外国にへここらしてられっか!」…そんな気分で、互いが互いを煽動し、洗脳し、熱に浮かされたように国際社会から孤立する、民族主義国粋主義の排他的な社会、国をつくりあげていったのだ。
 
繰り返すが、尾木さんにこの話をしたのは、2009年のことだ。