秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

人を切るときは、自分も腹を切れ

東京都が尖閣諸島を都の金=都民の税金で買い取るという話題は、いろいろと意見もあり、また、簡単に解説できない複雑な問題もはらんでいるので、あえて、いままで賛否については、ここで深くふれることはしなかった。
 
しかし、制度やしくみからいって、政府、都議会、都民への事前告知と了承、すなわち、議会の承認もなく、かつ、アメリカで独断で発表し、威勢をかって事を進めていることはあきらかに問題がある。いわば、石原氏の中国への反感、個人的なこだわり、民族主義の政治思想を勝手に振り回しているだけだ。
 
石原氏の独断専行に賛同も多かったが、予想しないほどの批判が寄せられた。石原氏の取り巻き、猪瀬などは、例によって、知恵をめぐらし、ここにきて急に、都が所有すれば、小笠原諸島など海洋調査の実績から、尖閣諸島の漁場調査、生態系の調査といった環境調査と整備を全面に打ち出し始めている。
 
つまり、領有権問題から一自治体が購入する妥当性を引き出そうと環境調査へと話をすり替えようとしているのだ。これはひとつには、議会対策がある。2億円以上の取引については議会の承認がなくてはいけない。領有権主張を国政を越えて、一自治体がやるというのは、ありえない。どう考えてもすんなり通過するわけがない。
 
議会の承認をえなければいいだろうと、一部を全国からの国民の寄付で…という案も猪瀬の考えだ。だが、被災地への支援も十分でない中、それが国民全体に受け入れられるわけがない。実質は、10億円ともいわれている。だったら、国が買い取れば…という話になり、石原氏のスタンドプレーを国に奪われてしまう。
 
しかし、それだけではなく、もし、これが中国との深刻な外交問題となり、尖閣列島に緊張が走ったとき、東京都ではなにひとつ手立てが打てないからだ。自前の軍隊があるわけでもなく、一触即発のとき、土地や領海、もっといえば、都民の命を守る力は東京都はなにひとつ持ち合わせていない。
 
結局は国政に頼り、自衛隊を動かしてもらうしかないのだ。それひとつとっても、途轍もなくキケンで浅はかな行動というしかない。大衆受けはしても、外交・政治の場では別の問題を生む。経済に波及したら、東京都でどう責任をとるのだ。中国なくして、この国の経済は成り立たない。当然ながら、経済団体からも、おいおい後先なしのスタンドプレーややめてくれ…という声が上がっている。それが、ひところの領有権発言が薄くなっている理由。

日本の一部マスコミやネオコン評論家たちはまるで石原氏を英雄のように報道して、アメリカで発表したのはさすが…という論調が多い。しかし、石原氏が記者発表したのは、プレスセンターや日本大使館ではない。やったのは、民間団体のワシントン日米協会での講演。
 
ここは、共和党右派、ネオコン、反中国一色の団体だ。日本と中国が経済において互恵関係にあることをおもしろく思ってない人々が大半。アメリカにおいて、いま共和党右派は力が弱い。巻き返しをずっと画策している。それと石原氏が地権者との直接交渉の道すじをみつけていたことがリンクし、ならば、石原、ひと肌脱いでくれよ…といったところ。男、石原、そういわれたら、勢いづくw
 
一方、地権者にすれば、男の意気に感じて…など、いろいろきれいごとはいっていても、国からの賃借料よりは、法外な金額で購入してもらえる東京都の方がいいお客さんに決まっている。2億円と当初いわれていた金額が、実は10億以上という話になっているのもわかる。これ、都がやらないことになっても、国は買い取りするしかなくなる。金額は上げることはできても、下がることはない。どっちに転んでも損はない。
 
基本、もちろん、これまで賃借料で処理し、国境問題を明確にしてこなかったツケであることに違いはない。しかし、これも石原氏が所属してた自民党時代から先送りしてきた課題だ。その中で、中国は力をまし、かつ、日中の経済のつながりは、アメリカ以上になっている。その現実をにらんむのが政治というものだ。油田開発の日中共同事業の方がまだ現実をにらんでいる。
 
喧嘩を売る…というのが男意気という時代ではない。思うように動ないからと国を相手に喧嘩を売るときは、若いやつの命を危険にさらす、国の存亡も危険にさらす。その覚悟がなければ、やってはいけない。やるなら自分の家族、日本を戦火にさらす覚悟でやってもらいたい。威勢のいいことはだれでもいえる。
 
大衆への受けや新党構想の人気取りにされてはかなわない。まして、都民の金を無断で使うなら、福島県支援のために福島と共同都市にでもなったどうだ。その方が一自治体がやれる、国のための事業になる。国民も拍手を送るだろう。
 
「人を切るときは、自分も腹を切れ」。ある真正右翼の言葉だ。その家は歴代、首相に血判書を送り、暗殺もくわだて、だが、当然ながら失敗する。だから、すべてその家の長男は自刃している。大喧嘩を売るときはそれくらいの覚悟でやる。それが男というものだ。