秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

静かに肩を並べて

来月11日のいわき産業創造館でのITセミナーの打ち合わせに、東京での大手百貨店との打ち合わせの合間を縫って、山形県鶴岡市でオンラインショッピングをやっているSさんが来訪してくれた。
 
先々週の爆弾低気圧。東京にはほとんど情報が流れていないが、庄内の海岸線は巨大台風のような低気圧の来訪に、港に係留されていた漁船が陸に打ち上げられる、巨木の杉がなぎ倒される、民家の壁がはぎとられる…という被害が出た。庄内地方で200億円近い被害だったらしい。

「震災の被害とは比べられませんが…」といいつつ、Sさんの自宅兼会社も甚大な被害を受け、埼玉のイベント出店のために用意して仕入れた商品が全部やられてしまった。めったにありえない災害に、保険にも入っていなかった。
 
Sさんは、もともと仙台でIT関連の会社の営業をやっていた。しかし、息子さんが交通事故に遭い、ケアを必要とする状態になって、鶴岡に帰り、自宅にいながらできる仕事をと、インターネットのWEBデザインを始めたらしい。そうした会社にいたとはいえ、最初は見よう見まね。そのうち、地域の生産者や商店と付き合いが深くなるにつれ、WEBデザインの延長に、オンラインショッピングを始めたらしい。

 
地域のまだ知られていない物産を掘り起し、それをWEBのオンラインショッピングに乗せることで、地域にも貢献している。

 
話ながら、息子さんの交通事故が大きな人生の転機になったのだな…と思った。詳細はあえて聞なかった。しかし、Sさんがオレたちの社会貢献活動に参加してくれた動機の奥に、そこのことが深くかかわっているような気がした。
 
身に降りかかった人生の試練。それをどう受けとめ、切り拓くかでその人の生き方や考え方も変わる。Sさんの会社の規模では相当の痛手だったろうに、その痛みに引きずられず、前へ進もうとする姿勢には、頭が下がる。そうした大変な時期に、合間をみつけてMOVEのセミナーの打ち合わせにきてくれるSさんの心根のあり方に感服した。
 
そのエネルギーもどこかで息子さんからもらっているのかもしれない。
 
いかにいま家族が健康で、平穏無事な生活が続いていたとしても、いつ、どのように、それが壊されたり、失ったりするかはわからない。だからこそ、いまこうしてともに生きられることへの感謝を忘れてはいけないのだと思う。どうのような試練であれ、共にそこにいることがどれほど奇跡に近いことなのか…その思いは、自分の身の回りだけでなく、多くのまだ見ぬ人々への思いや愛にも変わっていく。
 
Sさんは、東北人らしく、あまり多くを語らない人だ。しかし、その語らない姿の向こうに語れない深い思いがある。それをこじあけるのではなく、語らない姿の向こうをじっとみつめ、先を歩くでもなく、後ろを歩くでもなく、静かに肩を並べてともに歩むことだ。