秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

やさしい表情がそこにあった…

朝、秀嶋組の照明、Sの奥さんの告別式に出る。連絡をもらったのは、通夜が始まる数時間前で、あわてて秀嶋組関係者に連絡を入れる。
 
結局、告別式に出席できたのは、オレと大手プロダクションにいる俳優のO。式もこじんまりしたものだったが、2年半前に発病されて、その後、自然療法による治療を選択し、仕事も通常に続けようとされていたらしい。
 
おおまかな経緯や状態は、たまに会う、撮影前の打ち合わせや撮影の休憩時間などで聴いていたが、先週、「大いわき祭」の照明がやれそうにないと連絡をうけたとき、もう危ないのだな…と直感した。
 
実は、S、数年前から奥さんとは別居していた。その詳細は知らないが、Sが目指す照明家としての人生と奥さんが目指す人生の方向とが大きく違っていたのだろう。
 
うまくやっているように見える夫婦でも、実は家庭や二人だけの生活空間の中では、かみ合わず、乗り越えられない壁がある場合があるし、いつも喧嘩ばかりやっている夫婦が、プライベートの時間にそのささくれ立った関係を修復している…ということもある。

そうした機微の中で、最後の3ヵ月を看護と治療という形でともに生きられたことは、これまでのかみ合わない時間で互いが互いを傷つけた傷を許し合うには十分の時間だったのではないだろうか。
回復できない関係でありながら、だらだらと夫婦を続けるより、二人にはよほど健康的だったろうし、別れる別れないの面倒な議論は立上げして、共に過ごせる分、精神的には楽だったのではないかと思う。

この世の中、女性の意識が新しくなったとか、男性の結婚や夫婦生活、子育てに対する考えが進んだとか…いろいろにいうけれど、実際のところ、まだまだ女性の自立意識は低し、男性依存の体質はそう変わっていない。男は男で、理解あるやさしい男であらねばとしても、結局、男性優位やママ願望の幼児性から自立できている人間は少ない。
エロス的密着の関係を嫌いながら、実は、その密着から逃れられないという現象が、ある意味保守的な男女関係が広がっている。
 
終りのあるエロス的密着は、煮詰まることがないから、幸せなのかもしれない…ふと、あいさつで涙するSの顔を見ながら思った。闘いがやっと終わった…別れ行く悲しみと同時に、闘い続けた男のやさしい表情がそこにはあった。