秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

福島を救おうプロジェクト -自分がやらなきゃ誰がやる-

いわき市から前回同様、夕刻、支援物資を届けるために、会津若松市へ。
 
その前に、いわきジャーナルのSさんに紹介してもらった、小名浜漁港近くの「一平」へ。大衆的な小料理屋風を予想していたら、これが、創業70年という老舗の一流料亭! あんこう料理とうに料理が看板らしい。
 
くぐり戸をぬけて、玉砂利の小道。そこを抜けるとまさに、伝統を感じさせる古風な上り口。いい材木を使い、それが時の経過でいいつやと色を出している。高級料亭らしく、正面玄関からの風情は、老舗旅館風。
 
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Sさんのどこかとぼけた、インテリヤクザ風のノリから、つい、ひなびた小料理屋を予想していたオレたちは、一瞬たじろぐ(笑)。が、店の壁にある写真がなるほどなと思わせた。TBSの大御所プロデューサーのI先生、I軍団を代表する著名俳優のWさんの写真がある。
 
仲居さん、女将のHさんの話を伺って、SさんやエースのAさんが、夕飯はここで!と、ほぼ有無を言わせなかったことがわかった。
 
小名浜の被災のひどさは、前回報告している。にもかかわらず、二月も経たないうちに、この店構えと料理…。
 
前回、小名浜を取材したとき、漁港ばかりでなく、周辺の料理屋、船宿もほぼ全壊か半壊。からくも残っている店も津波の後片付けでとてもすぐに営業ができる状態ではなかった。同行したKも、「あの被害で店をやれてるんですかね…」といっていた。
 
店を再開したのは、つい一週間前。周辺の料亭や飲食店はとても再開できる状態ではなかったが、幸い、この店は、床下浸水で済んだ。周辺が営業もできない状態。そこで、開業したところで、すぐに客足が戻るわけではない。
 
ところが、ここの女将。気骨の人だ。従業員総出で、床下の泥をだし、浸水した調理場を清掃し、まるで震災の被害があったことを感じさせないまでに改修した。
 
「隣近所の店はひどい被害を受けてしまった。うちの店もすぐに営業ができる当てがあったわけでもない。だけど、幸い被害が小さかった。ならば、と思ったんですよ。私がやらなきゃ、だれがやるって気持ち(笑)。みんなが落ち込んでばかりいたら、小名浜は復活できない。だったら、まず、自分からやろう。そう決めたんです」
 
営業は再開したものの、交通網は十全でなく、かつ周辺には瓦礫や残材やゴミがまだ山積みになっている。営業している店もほとんどない。その中で営業して客がすぐに来るわけではない。しかし、そんなことは百も承知だ。小名浜の夜に灯をともす。その一念だけで店を開店している。
 
地元観光協会の会長をしているハワイアンセンターの社長とも入魂らしく、いわきの観光の復活がなければ、この街は復興できない…その思いがあった。
 
I先生とは馴染みが深く、いわきを題材にしたテレビドラマをお願いし、来月、ライターをつれて聴き取りに来てもらうことしたらしい。
 
いわきを支えるリーダー格にこうした人がいる。被災が軽かったもの、傷の浅かったものが、まず、自分の力でことを起こす。その小さいが、確かな明かりに、ひとつ、また、ひとつと灯がともり、にぎわいがつくりあげられていく…そのことをこのいわきの人たちは知っている。
 
リーダーたるもの、現場からは逃げない。最後まで踏みとどまって、自分にできる最善を尽くす。いわば、いわき魂、小名浜の女の意地を見た。
 
いわきの魚がこわいなって、いってんじゃねぇぞ。という思いで刺身に食らいつく。
 
びびりやのKは、「どうしてそんなに放射能好きかなぁ…」とオレを笑っていたが、おバカな奴だ。いま小名浜では地魚の漁は風評被害でとまっている。女将と板前が北海道や中央卸売市場から、からくも手に入れて魚たちだ。おそらく、仕入れ値は、地魚の比ではないだろう。儲けはない。
 
その上、Sさんの紹介ということもある。少ない客の一組だったこともある。オレが映画関係の人間だということもあったろう。だが、それ以上に、来てくれた客への感謝だったのではないかと思う。
 
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メニューにあった刺身定食とはえらい違い!
 
甘えび、ひらめ、あわび、旬のかつお、さざえ…その刺身にどんこの煮つけ。とても一人で食べきれる量ではない。だが、男秀嶋、女将の気骨には、食って応えるしかない。
 
酒が飲めなかったのが悔やまれる店。次回は、MOVEのほかのメンバーとどんちゃんやってやろうと心に決める。
 
帰り際、闇の中、ソープランドの明かりがついていた…。小名浜は風俗関係でもよく知られた場所。津波被害にあった、風俗店も少なくないらしい。プレハブで店を再開したところもあるという。
 
すべての人に生活がある、それぞれの日常がある。一平の仲居さんたちに生活があるように、風俗でしか働けない女性たちにも生活がある。その軽重は、ない。
 
自分がやらなきゃ、だれがやる。そこに、浮ついた正義はいらない。