なんの映画ぞ なんの舞台ぞ
午後、雨の中、東映東京撮影所へ。
そこから、風間杜夫や唐沢寿明など多くの俳優も誕生している。大手映画会社で東宝など舞台をのぞき、映画の俳優養成機関が残っていたのは東映だけ。しかし、テレビ系プロダクションが隆盛の昨今、経営維持が難しくなった。
オレの社会教育映画には、東映とのつながりが深いこともあって、10年以上所属しているベテランの脇役連中から、若手ながら、それなりに芝居のできる俳優まで、名前で呼び捨てにできる知り合いの俳優が多い。
オレの作品ならと、安いギャラでもスケジュールを調整して出演してくれた連中が少なくなかった。
FOR THE ONEでどう協力できるか、まだ定かではないが、オレが顔を出すことで励みになればと、スタッフに誘われ、芸能プロダクション向けのオーディションに顔を出したのだ。
が、しかし。俳優たちへの質問をすると、すぐに監督と見破られてしまい、周囲にひかれてしまう。確かに。プロダクションの連中がする質問と制作側がする質問では、内容も質も違う。送り出す側とつかう側だからだ。
東映映画では有名なキャスティングプロデューサーのFさんやマネジャーのIさんがわざわざ気を遣い、「カントク」と呼ばないでいてくれたのに…。
だが、馴染みの俳優たちは、オレがいることでなにがしか、オレの気持ちは受けとめてくれていたと思う。意図して目を合せない奴、意図して目を合わせる奴。それだけで、わかる。
3時間近いオーディションは、先週からバタバタのオレにはしんどかったが、オレの本気度を伝えるには十分だったと思う。オレは監督業だけではなく、経営者という立場だし、映画だけではない仕事もある。
だからこそ、こうした時間をつれたというのもあるが、東映の作品でこいつらに世話なった監督もいるというのに、最後のオーディションにだれも顔を出さないとは…
オーディションに付き合わなくとも、せめて、最後の晴れ舞台、お疲れさんと差し入れのひとつも届けてもよかりそうなものを…と思うのは、オレの思い違いだろうか。
途中、雪…。
義侠心、男気、人情、愛情…それがあってこそ、人は心を拓く。映画や舞台からそれがなくては、脇役やチョイ役に甘んじて、作品を支えている奴らが浮かばれない。
人をいとおしむ心なくして、なんの映画ぞ、なんの舞台ぞ。