秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

人は人に励まされて生きている

もう一回点滴をと医者にいわれながら、病院に駆け込んだときは、診療受付終了の時間
 
午後の診療担当のKM先生に合わせて病院に行こうと思っていたが、マネージャーのIさんと話し込んでいるうちに時間を逸してしまった。
 
長い歴史を持つタレント俳優養成所の東映アカデミーが来月末で閉鎖になる。昨年秋頃からその話は聞いていて、俳優タレントが新しい事務所に移籍ということになった。うちの会社で役立つことがあれば、力になりたいとIさんに声をかけていた。
 
結局、それぞれが新たなプロダクションを探し、見つけられない者で参加意欲のある俳優、子役たちは、今月末の土曜日と月曜日に公開オーディションに出ることになったらしい。他のプロダクションのマネージャー、経営者に来てもらい、移籍させたい俳優を見つけ出してもらうというもの。
 
Iさんが独立して、実力はありながら、移籍先を探せない俳優や他の事務所で移籍を考えている俳優たちを集めて、新たにプロダクション業務をやっては? 場所はうちのオフィスを使えばいいから…。と提案もしていたが、Iさん自身の家庭の事情や暮らし向きのこともあり、そうした冒険に踏み切る余裕がないらしい。
 
なんとかしてあげたいが、資金的な理由などで救ってあげられないのが、つらい。
 
個人的な事情やマネジャーとしての思い、いまある仕事のネットワークなど聞かせてもらったので、3月までの間まだ多少時間はあるから、もう一度どこかで話し合いましょうと別れる。
 
うちの会社も資金繰りなどで苦労しているからゆとりがあるわけではないが、できることがあれば、微力ながら力を貸したいと思う。
 
俳優の仕事だけではないが、そこそこ力があっても、チャンスに恵まれない奴がいる。競争の中で、そこそこの力だけではチャンスをつかめないということもあるが、自分を引立ててくれる人との出会いがないと道が拓けない苦しさもある。
 
つまり、自分の力だけではどうしようもないもの、というのがこの世にはあるということだ。
 
その苦しさや無念さの中で、それでも俳優を続けよう、何事か自分が目標とした仕事を続けようというのは、大変な犠牲や不義理、迷惑と負担を周囲に与える。それもまた、道を進もうとする人間とっては大きな苦しみになる。
 
自分のふがいなさにも嘆くこともあるだろう。嘔吐するほどの苦しみにもがくこともあるだろう。自分のだらしなさ、力のなさにすべてを投げ出したくなるときもあるに違いない。
 
それでもオーディションや現場では笑顔をつくり、いい芝居、いい演技をしようとそのとき自分にできる精いっぱいのパフォーマンスをやる。そのせつなさが、俳優の美しさをつくることもある。しかし、また、それだけでは仕事にならないのが俳優や何事かを目指す者の仕事でもあるのだ。
 
しかし、ひとりでも、何人かでも自分のことを認めてくれている、自分の先々のことを心配してくれている人がいてくれる。それは、どれほど大きな励みになるだろう。励ました方はいろいろでも、そうした思いがあれば、人はもう少しだけがんばろうという気持ちにもなれる。
 
もし、そこで方向転換することになっても、心にありがたい宝を抱いて、それを次に生かすこともできるのではないかと思う。
 
オレは人の力に限界はあるが、いい出会い、いい先人、いい教えと出会えれば、隠れていた力やこれまで発揮できなかった能力がきっと開花すると信じている人間だ。
 
思春期の頃、とりわけ、高校時代、オレはそうした場面にいくつも立ち会ってきたし、人が刺激をつけて、一瞬にして成長する姿を何度も見てきた。人の気持ちは変えられるし、変わることで新しいなにかをつかむことができるのだという確信は、自分自身を含め、実体験として持っている。
 
もう少しの努力で、もう少し視点を変えることで、そして、ちょっとした成長で人は、新しい何かに出会える。その勇気を孤独とひとり闘いながら得られる人もいるだろう。だが、やはり、応援してくれるだれかがいることが一番、幸せなことだと思う。
 
人は、人に認められて成長する。人は、人に励まされて生きている。
 
それをされてばかりの人生を生きてきたオレは、せめて、いま自分の不足な中でも、だれかのために、なにかのために、それができたら、どんなにかいいだろう。どんなにか自分も救われるだろうと思っている。