秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

願いの種

アニメ会社社長のKさんにお願いと打ち合わせ。
 
もう16年近く会っていなかった空間デザインのYさんに頼まれて、息子さんの就職先の打診。CG制作にかかわりたいらしいが、いまゲーム業界は不況のさなか、テレビや映画の下請けアニメ、CG制作会社も厳しい状況にある。
 
Kさんの関係でどこか検討してくれればと、親心いっぱいのYさんの代弁をする。うちの息子も来年から就活。他人事ではない思いもあってのことだ。人様のために身を使うことで、息子の就活でそうした引き上げてもらえる、いい縁に出会って欲しいという願い。これも、親心。
 
もうひとつは、来年の、うちの自主作品からアニメを取り入れようと考えている件。社会、教育、人権啓発といった硬質な作品でも、アニメ作品は多い。反戦アニメはその定番。
 
これまで予算の関係で踏み切れなかったが、Kさんのプロダクションと提携すれば、いままで実写では表現できなかった世界に挑戦することもできる。
 
実は、60歳になるKさんの温厚でユーモアに富んだ人柄、そして、何よりもジャズマンであることに惹かれている。
 
Kさんは、独立系のアニメ映像制作会社を長くやってきたが、受注減で、数年前、会社をたたむことにした。
 
そのとき、Kさんが一番に考えたのは、社員たちのことだったらしい。借金は自分が抱えればいいが、不況の中、再就職が難しい業界。なんとか、社員たちの身の上だけは先々のことまで責任をとった形で終わらせたかった。
 
自分のことより、まず社員の明日を考える。
 
その思いが、大手アニメ会社からのM&Aにつながった。もう万歳という状態で、親しかったアニメ会社の社長が会社を買収してくれたのだ。借金は相殺され、社員はそのまま、子会社のスタッフとして残された。Kさん自身も、雇われだが、社長職を続けることができている。
 
すべては、Kさんの人柄の結果だと思う。自分さえ儲かれば、自分さえよければという我執がない。いつも困った仲間に手を差し伸べ、ときには損をしたり、失敗をしても、それも仕方ないことと、人を責めることをしない。本当に心の温かな人だと思う。
 
昨夜、ヒットした連ドラ「JIN」の再放送をやっていた。
 
「JIN」がヒットしたのは、そこにあった内省だ。主人公の医師は、人の世の定めや自分の医師としてのあり方を様々な場面で振り返る。主人公の能力に期待する人々に教えられながら。
 
その先にあるのは、人々の幸せだ。人がどうすれば幸せでありえるのか。「人のため、国のため、道のため」、自分は何をなすべきなのか。その問いの中に、自分の非力さや弱さと向き合わされる。
 
しかし、行き着く先にあるのは、必ず、自分ではなく、人の幸せ。
 
その願いを持ち、行動を起こせる人がひとりでも増えることが、本当の意味で社会や世界を変えていく力になる。
 
政治家がどう動こうと、制度やしくみがどうつくられようと、その心根に、そうした純粋な思いがなければ人は動かない。人々の心ひとつひとつに、その願いの種がなければ、自分たちの住みよい社会は生まれない。