秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

春はくる

三寒四温ではなく、一寒一温。花冷えの日が続いている。

天気予報で日によって、ずいぶん温かいと報道されても、体感的には、なぜかオレは寒さを感じるし、北風が吹く中でも、どこか春の予感を感じたりする。

歳のせいかとも思うが、まさに、この国の、この世界の、いまを生きる人々の、いまを象徴するような気候。

ハイチでの地震に続き、チリ。海外での災害と災害時の治安悪化、あるいは紛争のニュースを聞けば、また、NPO活動で、世界を飛び回り、ときに、酒を酌み交わす、女性事務局長Kさんが、ひとりでも多くの命を救おうと、奔走しているのだろなと思う。

この間、人権啓発担当のYさんと事務所に立ち寄ってくれたOさんは、Kさんたちのグループとアフガン支援の視察にいっている。一月ほど前、KさんとWCRP事務局のHさんと、西麻布の胡同で飲んだときにさわりの情報は得ていたが、Oさんからアフガンの現状を詳しく聞かせてもらった。

政府スタッフは、国連軍が用意してくれた装甲車と警備兵に守られて視察ができるのだが、NPOなどの民間団体は、それに同乗させてもらえない。アフガンに入るまでの段取りや手続きには尽力していくれるが、現地の活動までは面倒をみてくれないのだ。

実は、アフガンに入りたいと思っていた。映画の企画のためだ。だが、いま報道、取材でアフガンには入れず、NPO団体も活動ができない状況になっているという。

Oさんたちも、装甲車をチャーターし、ガードマンを雇い、装甲車の中からしか、現場の視察は許されず、しかも二人一組でしか装甲車に乗れない。ガードマン一人で、警備できる人間は二人が限界だからだ。それ以上になると、命を守れないというらしい。

結局1台チャーターすると50万円の装甲車を三台連ねて、視察をした。現地を装甲車の中で視察しても、カメラを回せない。襲撃されるからだ。車窓から人々の生活を垣間見、ロケット弾が打ち込まれる可能性の少ない、警備のしっかりした高級ホテルの中だけが、自分の足で歩ける。

装甲車の中と高級ホテルの会議場だけ。現地の政府関係者や支援団体からの報告で、現状を理解するしかない。いま、唯一日本人で、現地の生活ができているのは、バーミアンでホテルを経営しているアフガンの男性の家に嫁いだ女性だけだそうだ。

それほどにアフガンは悲惨な状況になっている。だが、それは、イラク戦争が始まったときに、予想してえた。「世界の関心がイラクに向いたとき、アフガンは危ない…」。その言葉は、オレがイラク戦争反戦のイベントのために、国内外を飛び回り、出会った多くの人間たちから聞いた言葉だった。

興行成績はよくなかったが、日航の企業問題を扱った『沈まぬ太陽』では、アフガンの撮影ができなかったので、パキスタンのカラチで撮影をやったらしいが、いまは、パキスタン状勢も危うくないっている。タリバンなど反政府組織の拠点になっているからだ。

暴力と威圧で、他者を隷従させようとした、アメリカンスタンダードが生んだ世界の悲惨。

そこで生まれた数多くの問題が、世界経済の不安定化、核の拡散、テロの増大といった地球規模の新しい課題を突きつけた。憎悪の連鎖。

その根幹にあるのは、巨大であれることが強いことであり、巨大と豊かさを正義とする考え方だ。その大樹の影にいれば、安全で安心に生きられるという幻想だ。その正義と幻想が、世界に、この国に、社会に、憎悪の種を撒き続けている。

昨日また、一人の中学生がいじめを苦に投身自殺した。学校は状況をひた隠しにしている。

変ろうとしながら、変れない。安心、安全であるために。だから、この気候のように、どっちつかずで、揺れ動き、冷えたり、温かかったり、右往左往する。

昨夜、編集作業を遅くまでやっていて、旧知の仲でもあり、今回の公民科の取材にこころよく出演してくれた、文部科学省副大臣鈴木寛氏が引用したことわざが心に残った。

「未来をつくるための最良の方法は、自ら未来をつくることである」。

だが、それは、揺れる心の中で、未来はそう悪くないと確信し、利他のために何ができるかを描ける想像力の力だ。

春は、また、くる。その確信だけが、人を幸せに導く。