秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

絆の崩壊

窃盗事件、詐欺事件が増加している。

窃盗事件は、例年の3倍以上。とりわけ、ひったくり事件は極端な増加。それは、いうまでもない、明日、食べる物に困窮している人々が、昨年のリーマンショック後、急激に増加しているからだ。

コンビニ強盗が続いているのにも、書店やスーパーでの万引き件数が増えているのも、それを背景としている。この傾向は、年末から年度末にかけ、より増大するだろう。

オレの住む乃木坂界隈は、かなり治安がいいのだが、最近では、赤坂署のおまわりさんんが、個別訪問をして、ひったくりの防犯指導までしている。

これは、まるで、オレが小学生の頃の高度成長期の姿に酷似している。ひったりくり、置き引き、スリは、普段の生活の中にあった。しかし、もっといえば、あの2・26事件が起きた頃の社会不安と実に似ているともいえるのだ。

詐欺事件が多いのも、戦後復興期の不安と貧しさの時代と同じ。将来の先行きが見えない、戦争で家族を失い、寄る辺がない。そんな孤独と不安の心は、簡単に詐欺に翻弄される。

先週、結婚詐欺で34歳の女が逮捕されたが、殺人の疑いもあるといわれている。犯罪を冒した人間の成育環境も問題だが、それ以上に問題なのは、手料理を振舞われ、肉体関係を結び、結婚をほのめかされて、簡単に金を貢いでしまった、男たちがいるという現実だ。

いわゆる婚活で知り合った関係。WEB上のお見合いサイト、結婚出会いサイト、不倫サイトが犯罪のベースになっている。体よい名前をつけているが、現実には、出会い系サイトのようなものだ。

つまりは、肉弾で異性とコミュニケーションできない、ふれあいを持てない、そうした男女がネットの仮想空間で出会いを求める。

自己紹介や学歴、成育歴、写真のデータを見て、出会いの第一のハードルをネットにまかせる。それほどにいい加減で、キケンなことはない。しかし、言葉で騙され続けてきた男女には、ネットの情報は、肉声でない分、まだ信じ込みやすい。

男性が詐欺に巻き込まれるだけでなく、表には出ていないが、女性が結婚詐欺に遭う、レイプされるといったことが、婚活という美名の中で起きている。

しかし、それでも、人は、ネットでの出会いを求める。孤独だからだ。家族関係、男女の出会いが崩壊し、表層的な笑顔の出会いはあっても、コミュニケーション能力がないから、異性に自分をアピールすることができない。また、コニュニケーション能力が高く、器用だから、簡単に異性を騙せる。

孤独と寂しさの中で、愛を求めながら、愛とは程遠い、自己犠牲を強いられる。騙す方は、それが非人道的なことであるという自覚もなく、騙されいる方もそれを恋や愛と思い込まなくては、寄る辺がなくなる。

現実の人間関係がうまくできず、ネット空間の中でやっとみつけた幻想を、それが幻想だとわかった瞬間、自分が人つながりあえる根拠がひとつもないことを、痛烈に自覚させられるからだ。それほど、苦しいことはないからだ。

窃盗事件にしても、身近に相談や救いの手を差し伸べてくれるものがあれば、多くは抑止できる。詐欺事件にせよ、心の弱さを支えてくれるものがあれば、そう簡単に人は、詐欺に巻き込まれはしない。

しかし、実に悲しいのは、被害者はもちろんのこと、加害者も決して安穏な生活、成育の中にはいないということだ。どこかで社会からはじかれ、寄る辺ない中で、ワル知恵をめぐらして、他者を犠牲にする。

法や道徳、倫理でそれら犯罪を裁断するのは、簡単なことだが、被害者、加害者、双方を生んでしまう、いまのこの国、社会、家庭のあり方こそ、まずは振り返るべきだろう。

国民生活を変えるのは、まずは予算。税金の使い方。民主党がこの数ヶ月、それに奔走しているのはわかる。しかし、自公独裁が撒き散らした、この国の毒牙は、年末年始から来年度にかけて、より広がってしまう。

政治家も、官僚も、行政で生きる人々も、そして企業も、地域も、家庭も、この国はヤバイという強い危機感をもって、日々の暮らしを生き、人と人の絆の回復こそ、あらゆる犯罪、事件の最良の抑止策なのだということに気づきを持たなければならない。

わかったようで、できているようで、わかってない、できていないのが、人と人が本当の意味で絆を結ぶということの意味。