秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

天の啓示

酒豪編集者Rと出版社で打ち合わせをする。

暗礁に乗り上げている企画の意見調整。ここでの出版を模索するなら、まだまだ課題、ハードルがあることを実感する。

このところ、教育作品にせよ、書籍によせ、その他もろもろにせよ、昨年のように、思うように動かない。5月まで、比較的段取りよく事が運んでいたのが、6月以後、風の流れが変ったようになっている。

夕方近くに、日帰りで大阪出張というRと別れ、事務所に戻り、今後の対応について、あれこれ思案。いい解決策が見当たらない。

夜、前日にメールしてきた俳優の長部と会う。聞きたいことがあるという。

仕事の方は、映画の脇役だが、久しぶりにオーディションに受かったらしい。また、若い世代層を抱え、養成所を持つ芸能プロダクションが連合して、即興芝居の事務所対抗選手権大会があり、エントリーされたらしい。

聞きたいことは、次の映画の役が解体業の右翼の青年という役。そこで、役作りのために、右翼とはなんぞやというもの。ついでに左翼とはなんぞやというもの。

I監督の作品だから、それなりの作品だろうが、どういう映画か詳しい内容は聞かなかった。とりあえずは、右翼と左翼について、簡単に説明する。いまでは、右翼、左翼というわけ方そのものが、一昔前と違って明確ではない。二項対立では、なんぞやという答えられないというのが本当のところ。しかし、それを語ると複雑になり、理解するのに時間がかかるだろうと、単純化して話す。

奴は、もともと政治や社会問題に関心などなかったのだが、あれこれ映画やテレビの仕事をしていく中で、オレの意見なども聞くうちに、人間をきちんと描いた作品、社会のことを踏まえた作品がよき作品ではないかと実感し始めているようだった。

単に、著名になりたい、食えるようになりたいということだけでなく、こういう作品で出たい、こういう作品に関りたいという眼を持つようになってきたことは、成長だ。

オレは、最近晩飯は早め、少なめとしているのだが、メシを食べに行きましょうと誘っていた奴は、腹が減ったらしく、食事をつくる気力もなく、遅い時間にRedに顔を出す。

しばらくすると、別のところで飲んでいたネーリストのKが、帰宅途中に立ち寄る。メグもバイト時間が終り、飲む。予定外だったが、1時過ぎまで、主としてKと語り合って、帰宅。

長部と話している中で、オレの作品にも出演し、よくメシをしていた元女優・グラビアのTやKの話題になる。奴らは、いま世間を騒がせている酒井法子と同じ事務所。

Tは、とりあえず、体重を減らし、色気を磨けば、この世界で居場所をつくれた。Kは、眼力を生かし、もっと芝居を磨けば、居場所をつくれた。結局、二人とも、それをしなかった。ただ、素材として、人をひきつける華があった。

いい素材であっても、それを生かせるかどうかは、本人の覚悟と心の持ちよう。それに試練の中でも、貪欲に、狡猾に、役者であろうとしなければ、この世界、なかなか上へ上がれるものではない。

役者なんていう、生産性もなく、自分のことしか考えず、利他のために生きられないような生活を選んだ以上、社会から色眼鏡で見られ、カスだ、クズだと呼ばれも仕方がない生き方を徹底して生きる覚悟がいる。かつて、河原者と蔑視されてきた役者の本道は、そこにある。女優は娼婦でもあたったし、男優には男色があった。そこに芸や才気が花開いた。能楽世阿弥でさえ、それがなければ、能楽を芸術の境地にまで高めることはできなかった。

そんな役者の精神論を語っているうちに、オレ自身、それをどこかで忘れているのでないかと、ふと振り返る。

自分のしたいことのために、周囲を泣かせ、その身を切られるような悔恨を抱きながら、それでも、一つの作品をつくり上げることに貪欲すぎるくらい、貪欲だった、かつてのオレといまの自分を比較し、
かっこうにこだわっているのではないかと反省させられたのだ。

人と出会う、人の相談を受ける、久しぶりに会い、何事を語り合う。そうしたすべては、偶然ではなく、そこから何かを学べという天の啓示や信号があるとオレは思っている。

風の吹かない、風の流れが変っているいま、天は、オレにそれを教えているのか…。