秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

キーラ・ナイトレイ

いまキーラ・ナイトレイという女優にはまっている。

パイレーツ・オブ・カリビアンのヒロイン役でブレークしたが、キャリアは子役時代から。父親は舞台俳優、母親は劇作家という家に育った、ありがちなサラブレッドだが、14歳まで識字障害で、文字を読むこことができなかった。

子役時代は、録音した音を聴いてセリフを覚えた。識字障害は、ほかの認知障害と同じように、ある程度のトレーニングをすることで回復できる。認識の障害は、おおざっぱにいうと、視覚から入ってくる情報を、これは文字、これは色、これは数字というふうに、脳が分類して記憶することができない、発達障害の一つだ。

レーニングをすることで、視覚情報の分類を機能していない脳に学習させ、習慣づけさせることで、経験のデータが増え、意図して脳に情報分類ができるようにする。

思春期の入り口までに、こうしたトレーニングをつめば、完全でないまでも、日常生活に支障がない程度にまで、認識能力を高めることができるのだ。

前々回、紹介した『愛を読むひと』の文盲の主人公は、教育が受けられないということで、識字ができなかったが、キーラのような例でも、そのままにしておくと、文字を読むという能力が奪われる。

数日前、BSで、そのキーラが出演している、ジョージ・クルーニー制作の『ジャケット』を観た。映画としては、高い評価を受けなかったが、精神病院の拘束服と異常な回復治療法の中で、男がタイムスリップを覚え、かつて幼い少女の頃に出会い、いまは成人した女性になっているキーナと不思議な出会いをし、恋に落ちるストーリーは、オレ好みだった。

その少し前には、やはりBSでジョー・ライト監督の『プライドと偏見』を観た。芯の強い気丈さと折れるような弱さの二面性をもった女性の演技は、抜群にうまい。この作品でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされている。

英国の演劇一家に育っているせいか、伝統的な世界を生きる女性の品格が佇まいに溢れている。この映画で共演した、マシュー・マクファディンとの交際はいまも続いている。

女優は、眼力が勝負だ。彼女の眼には、人を射抜くような力がある。パイレーツのときには、それほど強い印象を持たなかったが、偶然BSで、彼女の演技を丹念に観ていて、それに気がついた。

学習障害だけではないが、脳の機能に欠落した障害を持つと、それを補おうと他の脳が特異ともいえる働きをし、天才的ともいえる力を与えることがある。よくいわれるように、普段、人間の脳はその半分も活用していない。しかし、事故やこうした障害で、働きを阻害されると、普段使われてない脳が一気に活動を起こすのだ。

キーラの眼力。その魅力的な演技の源泉はそこにあるのかもしれない。裏側にあるのは繊細と折れそうな精神、ガラス細工のようなモロさ。しかし、それを毅然と跳ね除け、凛々しく立つ姿は感動的でさえある。

どんなに心が弱く、苦境の中にあっても、凛々しく立つ姿のない人間は、男も女も美しくない。