秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

朝露の冷たさを越えて

昨夜はベティの送別会。
 
この再就職の難しい中、すぐに転職先が見つかったのが今年の初め。研修期間ともいえる三か月が過ぎて、突然の名古屋異動となった。震災の影響で異動が中旬になった。
 
話では、少なくとも2年は向こうでの勤務。本人にすれば、いろいろと思うところ、感じるところもあったと思う。しかし、これをひとつの人生のきっかけ、新しい自分探しと受けとめてくれたらと思う。
 
一人暮らしを始めたとはいえ、東京は馴染みのある場所。実家も近かった。名古屋となれば、週末思いついたように実家に帰るということもできないだろう。また、これから新しい人と出会い、会話をし、一つ一つ人間関係をつくっていかなくてはいけない。
 
東京と名古屋、遠くはないが、そこで生活するとなれば、生活習慣や常識とされているものの地域差、違いに戸惑うこともあると思う。
 
しかし、そのすべてがきっと新しい発見や気づきに導いてくれるに違いない。どうこういっても同じ日本、それに新幹線で一時間半ほどの近さだ。違いや新しいものとの出会いを楽しめる人間になって欲しい。
 
彼女は、実は内面性の強い人だ…と、最初に会ったときに感じた。世代的なこともあるだろうが、いい子であることを要求され、いい子であろうとすることで社会的な評価をされてきた世代。30歳前後の男女の多くがそうであるように、彼女もいい子であることとそうではない自分との軋轢に苦しんできている。
 
社会がもとめるいい子像と現実を生きる生身の人間としての自分。実はこの世代から酒鬼薔薇も生まれているし、通り魔事件の加害者も多く出ている。
 
しかし、彼女には、それが突拍子もない発想や飛躍した考えを育てる、いい軋轢にもなったと思う。ある意味、実に会話がクリエイティブ。たぶん、イワがベティと仲良しだった理由もそこにあるし、オレがベティと仲良くなったのもそこにある。イワ、ベティ、オレが仲間内では頻繁に会っていたのも、そんな奴がいてくれたからだ。
 
そんな、ちょっと普通の枠に入れない奴が、なんとか社会で生き抜くために、笑顔で凌いできた。だから、自分の弱さや内面の思いをさらけ出すことのできない状況はきっとつらいだろう。
 
昔、JR東日本だか、西日本のCMで、新幹線で大学進学で上京してくる青年の姿を映し出した作品があった。都会の喧騒に列車が入るにつれ、青年は新しい自分の未来を見るように、都会のビル群を窓からのぞきこむ。
 
そこに流れていた音楽は尾崎豊のI love you。その音楽の中で、故郷の駅のホームで息子を見送る母の姿がカットバックで入る。父の声がその映像に被った。
 
「お前が捨てていくものの重さがわかるまで、決して帰ってくるな…」。
 
30代半ばになっていたオレは、そのCMを見て、じんときた。自分が東京へ来たときのあの気持を思い出させたからだ。何事か果たして、いつの日か帰らん…という、あの「ふるさと」の歌詞にある一節の気分だった。
 
上京してから、オレは人の温かさややさしさ、そしていい友にも恵まれた。しかし、同時にたくさんの理不尽なことにも出くわした。だが、いつも、そこには、福岡空港でオレを見送ってくれた高校時代の同級生の顔やおふくろ、姉の姿、オヤジへの思いがあった。
 
奴にも家族や東京でのいくつもの温かな人との出会いがある。きっと奴にもそれがこれから出くわすいろいろな理不尽さを乗り越える力になるに違いない。
 
           美しい花は朝露の冷たさを越えて、花を咲かす。
 
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