秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

この国の復興

新潮選書『日本人はなぜ貧しいのか』を読む。
 
格差、年金、少子高齢化、国際競争力…。日本が抱える問題を国内外の経済統計指数を軸に、分析し、政治やマスコミが語る分析のウソを暴いている。
 
著者の原田泰氏は、元経済企画庁の官僚出身で、民間シンクタンクエコノミストの解説本だから、かなり専門的。
 
が、しかし。民主、自民、公明、みんな党、社民、共産など、政党やマスコミが連呼している日本の問題点の指摘が、非常に情緒的で、現実の数値をしっかりとらえていない、ということを知る上で、いいガイダンスブック。
 
エコノミストの本だから、かなり冷徹に数字を射抜いていて、ちょっと敬遠する考えや指摘もあるが、その耳ざわりの悪さがいまの社会には必要なことかもしれない。
 
この間のNHKスペシャルもそうだし、前回紹介したハーバードビジネススクールの著作もそうだが、いかに官僚たちが恣意的にはじき出し、政治家が読めない統計に踊らされ、マスコミがそれを歪曲して、いい加減なものにしているか。それを改めて実感させる。
 
こうしたデータの歪曲、統計資料の分析のいい加減さは、実は、小泉・竹中路線のときに、指摘されている。圧力のある中で、ひとり、小泉・竹中路線の過ちを指摘したのは、植草秀一。当時、早稲田大学大学院の教授だった。
 
女子高生のスカート盗撮事件など、再三にわたり公然わいせつで逮捕されたが、その真実は闇の中だ。当然ながら植草は無罪を主張し続けたが、どう考えても、権力によって、狙い撃ちされた事件としか思えない。
 
東大卒で野村のエコノミストとして活躍。厳しい経済界の中で、実力を発揮し、早大教授。一方、竹中は一橋卒で、慶大教授という現実の経済にタッチしていない、アカデミズムの人間。
 
おそらく、植草ほどすぐれた経済アナリストは国内にいない。竹中など、それに比べたら幼稚園児のようなものだ。それが、植草が狙われた大きな要因ではないかともいわれている。
 
しかし、いまやっと、かつて植草が指摘した、この国の経済分析のいい加減さが、こうしてさまざまな形で露出してきている。露出するようになったのは、国や地域、国際経済が、行き詰っているからだ。
 
小泉・竹中路線の過ちはもう語るに足りない。地方の商工会やライオンズクラブロータリークラブにいったら、竹中などぼこぼこにされかねない。現在の地方の疲弊と都市集中、格差の元凶だということを、苦しい地方の方がよくわかっている。
 
苦しくなって、やっと正しい分析に気づく。遅きに失した感はあるが、気づかないより気づいた方がよい。
 
今年は、こうした正しい統計分析とそれを政治、経済に応用できる人材が陽の目を見る社会であってほしい。
 
菅に多くは期待できないいま、同時に自民にも他の政党にも大きな期待はできない。社会を変える力は、いつもいうが、政治家ではなく、国民にあるのだ。政治家など、たかだか、一部の支持者や圧力団体に選ばれただけの人間に過ぎない。
 
自分のいのちをかけて、腹を切れる覚悟で苦難に立ち向かう武士道精神など、だれも持ちはしない。アホな政治家やおバカな評論家、マスコミに期待するのではなく、国民自らの手で、社会を変えることが、いまは求められている。
 
その決意が国民の側になければ、この国の復興はない。