秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

冬構え

オーディションの段取りを終え、香盤表の作成作業に入る。
 
本来、助監督の仕事。が、しかし、うちのチーフ助監督、ITが苦手。
 
この業界、意外にITが苦手という連中が多い。とりわけ、コテコテフィルム時代を生きた連中ほどそう。手書きの香盤表は、映画人には受けるが、メール時代には、ちょい不向き。
 
パズル作業に、ため息をつきつつ、段取りを組む作業で一日終える。
 
気づけば、すっかり気温が変わっている。今年は夏からこの秋、冬にかけ、いろいろなことがあったのだなと、ふと思う。
 
秀嶋組の撮影は、今年3月の女性の人権シリーズ以来。初の申請で、文科省選定作品の承認を受けた。
 
撮影の連絡で、馴染みのスタッフに連絡をすると、それぞれに人生の転機を迎えた奴や体調の問題で、手術や入院をした連中がいる。
 
仕事での縁はないが、コレドの常連仲間が心配している、Sさんも急の発病だった。
オレと親しいテレビプロデューサーのSの師匠。意識が戻ったらしいというMさんのブログを読んで、少し安心。秀嶋組の連中も、なんとか、夏の試練を越えたらしい。
 
山田太一が全盛の頃、NHKのドラマスペシャルで、「冬構え」という作品があった。演出は深町幸男。主演は、笠智衆。妻に先立たれた年老いた男が、これまでコツコツ働いて貯めた金をバックにつめて、死出の旅に出るという話。
 
一生で最後に、これまでできなかった贅沢をやって死のう。そう思いながら、生まれてこの方、もったいないという人生しか生きてきたことのない男には、それができない。自殺に失敗し、まだ生き抜きたいという自分の思いに直面し、その男は断崖の上でうめくように泣く…。
 
老いることの孤独ゆえに、潔さで幕を引きたいと願いながら、老醜をさらしても生きたいと思う生への執着。それが、老いるということの辛さと深い意味をオレに教えた。
 
オレのように、まだ高齢の方からみれば、若いと思える人間でも、駆け抜けるように生きてきた人間は、ふと、もうこれでいいかと思うときがある。日本の自死者は、30代と50代に集中している。
 
もうこれでいいか。そう思わないためには、冬を生き抜く何かがいる。だから、冬構え。
 
それは、オレにしてみれば、残された時間があまりない中で、まだ形にしていない作品にしがみつくことしかない。