秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

駆け引きの中の真実

不思議なものだ。
 
昨日、ブログでばばあとオヤジのことをネタにしたら、突然、オヤジから電話。入れ歯の調子がよくないのと、高齢で言葉がすっかり絡むようになった。最初、何をいっているのか、わからない…。
 
よく聴けば、携帯がつながらないから、会社に電話をしたという。だが、携帯に着信はない。オレの携帯電話の番号は登録しているはずなのに、違う番号に電話したらしい。それでいて、番号を聴いてメモしようとしている。いやいや、登録してあるはずだから…。そんな、ありがちな記憶が薄くなった高齢の親とのちぐはぐな会話をしばし。
 
電話をしたとはね…。と、オヤジが話を切り出すと、福岡にあるマンションを売る売らないで、姉ともてめているらしい。
 
オレが高校の1年のとき、オヤジは念願の家を買った。それまでは、狭い警察官舎住まい。オヤジのケツを叩いたのは、オフクロ。昔から、生活を前に進める提案をするのは、オフクロだった。その圧力がければ、オヤジは、ノンキャリアで異例といえる、警視正まで上り詰めることはできなかったと思う。
 
住宅公団の抽選物件で、当選しなければ購入することもできない。それが百倍近い当選率の中、当たってしまった。福岡の中心、天神からタクシーでツーメーター。電車で二駅。高校1年から大学へ進学するまで、オレはその家で過ごした。「実家」は、福岡での生活を東京の時間が越えるにつれ、一層、その家だった。
 
6年ほど前、老朽化で、建て替えになった。新しいマンションに変わることを楽しみにしていたオフクロは、だが、工事が終了する前に、そこへ住むこともなく、他界した。オヤジと二人、夫婦で手に入れたマンション。行き付けの美容室も、ブテックも、マッサージサロンも、教会もすぐそばにあり、新築物件に住むことを楽しみにしていた。
 
一時、姪夫婦が住んでいたが、子どもたちがあばれハッチャクたちで、下の住人から再三の苦情。結局、家を出て、いまは売り物件として空家になっている。姪たちが生活するようになって、だから、オレは福岡の実家を失った。いまは、福岡に帰ってもホテル住まい。
 
だが、この不況。不動産価格は下がり、様子見状態。持ち続けて、値が上がるのを待つのがいいのか、値は低くとも、新規建て替えに伴う差額ローンを清算して、現金を得るのがいいのかでもめているらしい。
 
財産分与は終り、姉の所有になっているから、オレは直接関係はないのだが、おそらく、オヤジにも、姉にも、思うところがあり、オレに下駄を預けるような話になってしまったようだった。
 
家族で駆け引きは必要ないというのは、きれい事。
 
家族だから、あれこれ思いをめぐらせなければならないことの方が、実は、多い。他人でも、近しい関係になればなるほど、ストレートでいいことばかりではなくなる。愛情や信頼、深く結び付きたいという思いがそうさせる。深く結び付いているはずだという期待がそうさせる。
 
ふと、そういえば、うちの家は、何か一つことがあると、家族全員でよく話し合いをする家だったなと思う。家族の大きな節目では、いつも家族会議。普段から、テレビドラマのことや生活の中のいろいろなスケッチを、ねぇ、ねぇと、話題にする家で、家族が向き合って話しをすることに抵抗がない家だった。
 
ストレートに話し合いがいかない時期は、家庭の空気が悪くなることもあったが、その緊張がつらくなり、結局、どこかで話し合いをする。しかし、わずか4人家族でも、そこには、いつも根回しがあった すべてがストレートではうまく行かないことを知っていたからだ。
 
昨夜、東映の室長とプロデューサーのKさんが来訪し、家飲みで今年企画の作品のこと、今年のコンペや映画企画のことを取り止めもなく話し合った。いまや、東映運命共同体のような会社になり、まるで東映の人間のように扱ってもらっているから、家族会議のような空気。
 
仕事ばかりでなく、プライベートな話題や付き合いをするようになって、こんな関係になっていったが、部内でストレートにいかない問題を根回しをするように話し合った。
 
当てもされ、期待もされていると感じ、ありがたいなぁと感謝しながら、物事、きれいことにして、何でもぶっちゃけ、ストレートでは前へ進まないことを改めて思う。
 
駆け引きと言う言葉はいい言葉の印象がないかもしれないが、互いが深く結びつこうとするところに、やさしい駆け引き、互いを思いやる駆け引きは、やはり、必要なのだ。
 
それは、家族でも、仕事でも、そして、恋でも、政治でも同じ。その中に、真実がひとつきちんと落ちていれば、互いの関係に未来を描ける。
 
昨日の首相所信表明演説。いろいろと突っ込むところもあるだろうが、市民運動家としての自分の政治との関わりを根幹に置き、真の市民社会の形成を目指すという菅氏の言葉は、その中で、きちんと落ちる一つの真実。