秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

アメノウズメ

地方の講演などでよく話をすることだ。よく人は都市と地方という二元論で地域の問題を議論したり、語りたがる。
 
しかし、現実には、都市の中においても、地域間格差はあるし、地方においても、一律に同じ課題を抱えているのではなく、地域間によってその問題は異なっている。さらには、地域内においてさえ、都市と同じように格差や隔たりを抱えている。
 
都市と地方といった二極対立構造で物事をとらえるやり方は、多くのものを見過ごさせるし、現実把握を淀ませる。
 
昨日、ある活動で、北青山にある都営住宅団地を訪ねた。この団地の裏手の原宿に通じる神宮前の通りには、以前、ある女性に教えられ、よく連れてこられたカフェがあって、そのときから、築50年以上にはなるだろう、この団地が気になっていた。
 
オレが上京する前に建てられた団地だろうが、そこには保育園がいまでもある。しかし、当初はこの団地に生活を始めた若い夫婦が子たちを通わせただろう保育園が、いまでは、高級外車でやってくる青山界隈のちょっとしたお金持ちたちの保育園になっているらしい。
 
いま新しい入居者を受けいれていないから、団地は高齢者住宅になり、建て替え計画もあるらしい。数百世帯あったものが100世帯ちょっとになり、空部屋になっている棟に住民を固めて生活させ、建物を新しくする…という計画らしい。しかし、それはおそらく、いまいる高齢者たちのためではなく、これから都営住宅を利用する若い世代のための対策に違いない。
 
その一方で、港区の地域包括センターがずいぶん力を入れて、地域高齢者のサポートを続けていると聞いた。中高年や高齢者の孤立死で問題になった常盤台団地も、いま自治会を中心に孤立死撲滅の運動を行っている。
 
だが、この北青山でも、セルフネグレクトの高齢者がいて、地域の活動の輪の中に入ってきてくれない人がいるという。ここの地域の世話役をやっている、自治会の総務部長さんのTさんも、すでに70歳近い。神経痛の足をひきづりながら、ここの高齢者のために、あれこれ世話役をやっている。
 
行政や包括センターが力を入れ、いろいろな取り組みを提言し、そのための資金的サポートをしたとしても、現実にそこで高齢者対策に直面しているのは、高齢者だ。民生委員の平均年齢はいま、70歳近い。この構造式が変わらない限り、都市の中に、高齢者問題を抱えたホットスポットはなくならない。
 
いまこの国には、天宇受賣命(アメノウズメ)が必要だ。地域のいろいろな場で、家の中に閉じてしまっている人々を地域へ開くきっかけをつくれるヒトであり、コトだ。よく知られているように、アメノウズメは、天岩戸の前で、ストリップショーをやった。祭りの原点でもあり、日本の芸能、演劇の原点として演劇論では位置づけられている。
 
裸踊りはやらなくてもいいが、高齢者だけ、中年世代だけ、若い世代だけ…という地域のあり方、棲み分けのあり方を根本から見直すときがきている。本来、この国は、そうした世代別棲み分けをしていなかった。アメリカ的な生活スタイルが導入される中で、世代は世代から出ていくのが当然のようにされてきた。
 
地域力とは、都市でも、地方でも、いろいろな世代が集合する中でこそ、生まれる。そのことで、初めて、アメノウズメが立ち現れるのだ。