秀嶋賢人のはてなブログ

映画監督・NPO法人SocialNetProjectMOVE理事長

なんで見えない

「なんで見えない、わたしわからない…」

 

名古屋入管で死亡したスリランカからの留学生、ウィシュマさんの亡くなる最後の言葉だ。死亡時、ウィシュマさんの体重は20キロも落ちていた。病状が現れてから、死亡するまでの間、適切な医療処置や入院搬送されていれば、失われることのなかった命。

 

体調の悪化が明らかなのに、入管の「処遇」といわれる担当者は通訳も介さず、彼女の苦痛を真剣にとらえるどころか、問いかけの際に小ばかにしたような軽口をたたき、退所したいための詐病としかとらえていなかった。

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その背景には、在留資格のない外国人、とりわけアジア、中東、中南米など経済的に貧しい国の彼らに対して、=犯罪にかかわるという偏見と思い込みがあり、「奴らは頭が悪く、悪事を働き、嘘をつく」と決めつけているからだ。そのため入管の施設は刑務所や拘置所に近い。これは先進国では日本くらいなもの。欧米でそれをやったら人権問題で大騒ぎになる。

詳しくは述べないが、日本の入管は、世界基準に大きく遅れ、基本的人権の視点からいっても、強圧的、威圧的で、国連の人権委員会国際司法裁判所に取り上げられたら完全にアウトな組織。

それが依然、組織のあり方や運営を問われずにいられるのは、一般国民と縁が薄く関心がないため、権力機構がお得意の情報の隠蔽、改ざん、操作が日常的に行え、それを監視する機関がないためだ。

じつは、私もかつて、ある中国人女性の帰国申請ビザがあまりに下りないので、成田にある入管まで直談判にいったことがあり、その一方的で強圧的、猜疑心の固まりの入管職員の態度に、まじキレしたことがある。

常々、彼女が在留資格に気を配り、入管に対して慎重だった理由がそのときわかった。

キレた私は、自分の父が彼らと同じ司法にかかわる警視正を務めていたことを伝え、「このままきちんとした不正の確証もなく、また疑った上に調査も行わず、父親の病気で帰国を申請しているのに受け付けないのは人権問題ですよ。場合によっては仕事柄マスコミともつながりがありますから、この事実を公開しますよ」と彼らの一番弱いところを突いた。すると慌てて上長が現れ、改めてこちらの言い分を聞いて来た。それからわずか1週間ほどでビザは下りたのだ。それまで一ヶ月以上申請は放置されていた。

いま、驚くほどの速さで円安が進んでいる。ウクライナ問題に円安が重なり、給与は全く上がっていないのに、物価高となり、参議院選挙後にはさらに物価は上がる。

正規雇用でしか働けない就労者が1000万人以上というのは人口比率からいって、先進国でも例がない。儲かっているのは人材派遣会社。人件費のピンハネで利益を得ている。

消費税は社会福祉の財源のはずが、生活保護や年金はカットされている。一方で大企業は内部留保を増やし、法人税は抑えられている。余剰資金は投資に回され、企業は自らの産業や新規事業、人材への投資といった本業の拡大ではなく、本末転倒な株で儲ける体質に変わっている。

子どもの貧困は親の貧困とパラレルだが、6人に一人は相対的貧困家庭にあり、大学進学への補助は貸与給付が主で給付奨学金は手薄なままだ。貧困と生活難は若年層から高齢世帯にまで広がってしまった。

岸田政権、自公維新国民は、この状況にきれい事の対策は言う。果ては、分配どころか、株式投資で生活を補強しようと一国の総理が恥じもなく、まともな経済政策も打ち出さず、責任を投げ出す。

だが、資本主義社会の要は富の再配分と国民生活の活力創造による内需と外需のバランスシートを保つことだ。間違っても株投資に国家財政をゆだねるものではない。本業や新規事業のないところに、発展も成長もない。あまねく人々が安心して暮らせる社会などまったく頭にない。だが、国民が求めるいるのはそれだ。

その希望がないから10代から30代の自死率が先進国でトップをいっている事実を見ようとしない。

自分たちの固定観念と世界の趨勢、時代の変化に対応できない思い込み。失策や失政、利益相反や利益誘導を見逃し、元首相の犯罪さえもみ消す。こわれてしまった行政、司法、立法機関は、国民生活ばかりでなく、こわれしまっている自分たちの姿さえ見えなくなっている。

ウィシュマさんの断末魔の言葉。「なんで見えない、わたしわからない」

その言葉は、自死した人々の声であり、東京オリンピック開催にこだわり、後手後手の対策で亡くならなくもよかったコロナ感染者、いま生活難にあえぐ、国民の声を代弁する声だ。

なんでこの現実が見えないの!?   なんで私の苦痛がわかってくれないの!?  そんな大事なことがわからない、あなたたちのことが、私にはわからない!